ヒーローは悲劇的な存在か パインソー『extreme+logic(S)』

札幌演劇シーズン2017-夏-の上演2作目は、「盟友コンビ」である脚本・川尻恵太、演出・山田マサルのヒーローをめぐる物語。BLOCHに入って一番驚いたのは、シンプルな美術の建て込み。何かデジャヴがあるなぁと感じてすぐに思い出しました。1967年にNHKで放送され一大ブームを起こした米SFドラマ「タイムトンネル」に登場する装置です。パインソーの独特の劇風はコアなファンが多いし、山田のベタピンともいえる川尻本とくれば小屋は満員御礼。追加の椅子が運び込まれるほどでした。シェークスピア劇でもチェーホフ劇でもないので、作家と演出家が共犯者としてつくりだした劇空間を思う存分楽しめばよいタイプだと思います。

タイトル通り、extreme=振り切ったところと、logic(S)=ちゃんと段取りを踏んで物語っているところの塩梅が面白かったです。でも、マルチエンディングまで考えたのですから、この個性派揃いの役者たちともっと弾けるかと期待していたのですが、(期待しすぎたせいでしょうか)なんだかもっともなところに丸めちゃった芝居になった気がしました。主人公のツッキーことオオツキ(赤谷翔次郎)たちヒーローの設定やそれぞれに持ち合わせている悲劇性の展開はスラップスティックで、小ネタあり、小芝居あり、アドリブあり、下ネタありでとても面白いのですが、思ったよりも伸びなかった気がします。ヒーローたちのいのちを支えている「ヒーロー食(缶詰フード)」の謎が、劇の割と早い段階で読めてしまうからかもしれません。仕掛けがバレても、そこから劇的な爆風が広がるかといえばそうではなかったように思います。エヴァンゲリオンで一躍認知された使徒のように意味もなく突然襲来する怪人退治のために組織された「地球浄化委員会」にしても、一部のエリート(人間?ヒーロー?)が生き残るために、他者をジェノサイドするというニュアンスがありますし、オオツキのヒーローネーム「ヒト」にしてもそうです。劇の構造が割とシンプルで分かりやすいので、その分、役者の身体やセリフ回し、アドリブ含め演出の自由度は高いはずで、山田はきっちり仕事をしています。でも、きっとこういう方向へ展開するんだろうなぁとイマジナリーラインにとらえられちゃう気がします。前半の笑いをこらえられない逸脱ぶりから、徐々に物語が立ち現れると台詞がいかにも説明的に響くところがあって、下ネタ含めたギャグで逃げ切りを図るのですが(図ること自体は面白い)、地球消滅までのカウントダウンというケツカッチンがあるので、物語力としてはとても素直になってしまったように感じました。あと、CDが生まれて百数十年後の世界とか辻褄は合わなくても全然かまわないのですが、SNSを映像で投射したシークエンスは、正直効いていなかったように思います。だって、ヒーローたちがボランティアでたまに助けているのは、僕たち無辜の大衆ではないと思うからです。でも、この芝居のヒーローはとてもツラいですね。だって、食べることからして究極の選択をしなければ生きていけない仕事で、しかも生き死にがかかったボランティア。なんてシュールな。

役者陣は実に達者揃いです。これは一見の価値あります。フツーにしている赤谷が哀愁たっぷり。山崎亜莉紗、泉香奈子のお約束もたっぷり楽しめます。田中温子は実に素晴らしいコメディエンヌぶりを発揮。「コインランドリーNo.5」でもそうでしたが、川尻本と相性が良さそうです。北海学園大学演劇研究会の五十嵐穂が、めっけもんです。僕の観たエンディングでは、一番美味しいところをかっさらいました。やっぱり学園大の演研ってエリートの系譜を継いでいるんですね。

世界平和なんて絶対に実現しないのですから、いつでも怪人はやってくるのでしょうし、怪人が来なくてもそのうちヒトは自らの高慢さで自滅するかもしれません。現在の世界人口は推定約75億人。国連によれば、2050年に95億人、2100年には112億人になるそうです。やっぱり、ヒーローとかヒーロー缶、必要になるかもしれません。この劇の時代設定は明らかではありませんが、2100年頃の日本と考えるとなんだか辻褄があうような気がしてきました。怪人って、もしかしたら、僕たち?

余談。マルチエンディングは観客による投票で決まる仕組みです。しかも劇中ガチで開票します。これは意外とワクワクしました。赤票「理にかなった理不尽。」現実の告白編。ピンク票「ヒーローだって、風物詩。」花火の約束編。緑票「見ろ!これが、生き様だ。」生きたヒーロー編。ちなみに昨夜は赤とピンクが22票と同票に!34票を得た緑編を観たわけです。お芝居としては、どこかで枝分かれするポイントをつくっているはずなので、どこかなーと想像してみるのも楽しいかも知れませんね。ついでですが、リサ・スティッグマイヤーの連呼は僕のツボでした。バイリンガルタレントの草分けかな。NHK、民放全局にレギュラー持ってたのではないでしょうか?

 

7/31(月) BLOCH

 

 

text by しのぴー

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